[4mm]Tonality.
ボクと私の知覚交差
ボクは見ている。
私は見ている。
コダーを。
ヒカリを。
図書館を。
街を。
世界を。
ジオラマを。
私の意識がクロスする。私は戻ってきた。そして見えない自信が私に確信を与える。ここがコンポスなのだ。
いや、違う。戻ってはいない。ボクはコンポスにはいない。しかしいるという事象を知覚している。コンポスにあるのだ、ボクの意識だけが。
動けるか
私の脳が立ち上がる、追いつく器。なんとか言うことを受け付けるようだ。ジオラマの中の図書館を見つめる。いま私はそこにいる。コダーを見上げつつ、聖書の落書きを読み上げた瞬間に意識が薄れ、もう一つの意識がコンポスに芽生えた。
相異なる二つの感覚、それでいて片方の体感を片方が視覚として重ね、シンクロする。不思議な感覚が脳を麻痺させる。
視線を部屋全体に移す。何が起きているのか、どうしても知りたい。私の興味はそこだ。

ジオラマを俯瞰する。ジオラマの周りに置いた7つのマテリア、7CM。それぞれに色がついて発光している。ジオラマのガラスの内側、マテリアを源とするかのように7箇所からヒカリが入り込み、まるで風に連れ去られる煙のようにジオラマ中央に流れこむ。
それぞれのヒカリが融合し、ムジカは温かみに包まれている。村人はみな楽しそうだ。
なんてキレイなんだろう
気がつくと吸い込まれるようにマテリアに伸びる手。何がヒカリを放っているのだろうか。顔に近づけ覗き込むがヒカリはない。窪みから離すと消えてしまうようだ。いや、不可解だ。窪みにヒカリを置き忘れている。ヒカリを生成しているのは窪みの方だったのだ。マテリア不在でヒカリを放ち続ける窪み。しかしそれも徐々に陰りを増していく。
!?
マテリアを持つ手に徐々に痺れが走りだす。熱くはない、冷たくもない、痛くもない。違う、痺れてるのは手ではない、感情だ。
慌てて隣の窪みにマテリアを戻す。手に力が入り心做しか少し傾くレール、ジオラマとは独立しているようだ。次の瞬間、音のない悲鳴のように異なる色で発光し始めるマテリア。そこからムジカに流れこむヒカリ。混ざり始める異色。世界を覆うヒカリが怪しく崩れ始める。
図書館のボクの周りの空気が急転するのを肌で感じる。いや、ボクの内面からはっきりと感じる。電気のオンオフのように急激に雰囲気が変わりざわつき始めるムジカ。
何かがヤバい…!
村人たちの危機感を感じマテリアを元の窪みに戻す。
元の静けさと穏やかさを取り戻すムジカ。ふと窓の外に物凄い勢いで掲げられる旗のようなものが一瞬目に映る。旗には何か文字のようなものが書かれていたように見えたがよくわからない。視点を街に戻す。村人たちはまだ多少の動揺の中にあるように映った。
調和のルール
リズムを打つ心臓を肩の力で制し、起きたことを振り返る。
発光するマテリアと痺れる感情。
置く位置に応じて変わるヒカリ。
壊れ始めるムジカ。
マテリアを元に戻すと戻る世界。
取り替えられた国旗のようなもの。
マテリアを置く場所に秘密があるのか
きっと窪みへのマテリアの配置は組み合わせ的な正解の配置があり、それを引き金にムジカ世界が変わってしまうのだろう。調和を乱す配置を先ほどしてしまったのだ。ルールはわからない、しかし調和のルールがあるのだろう。思考を巡らせるが、今の私の周りに採点をしてくれる者はいない。
そういえば、旗が上がっていた。あれはムジカの国旗…?もしかして反乱でもあって国名が変わってしまったのかな…?
胸騒ぎがする。確認しなければいけない、そう思えた。旗はコンポスのボク、つまり私の方からは見えるだろうか。私へと意識を集中する。
旗は拍子抜けするくらいに目立つところにあった。寧ろこれは、ムジカ民に見せるつもりはあるんだろうかというくらい天を刺し抜いており、まるでジオラマの外の世界へアピールするかのような錯覚さえする。
N…M…。えーっとなんだ、N…なんとか、とM…なんとか
目を凝らすとはっきりしてくる視界。乾いた唇をかみしめ、その言葉の意味を記憶の辞書から探し始めた。