[7mm]minor.
鍵場
ふと我に返る。
意識を空中左上の15cm程度のところにぶら下げる。
変化した村人の様子。それは事象であり、何かしらを経た結果である。事象はこれのみなのか。そして原因はどこかに観測されるのか。
集中しろ…
マテリアに止まる視点。顎に伸びる右手。ふと思い出す。
マテリアの配置で世界は変わった
急激に変化したムジカ。もしかして今回も私が椅子で移動してる間にマテリアの配置が変わったのか。見える配置を時計になぞって整理する。
私の手元を十二時として、

二時、
三時、
五時、
七時、
八時、
十時。
椅子が移動する前の光景を思い出す。確か手元を十二時として、

二時、
四時、
五時、
七時、
九時、
十一時。
一見違うように見えるが、よく考えると見ている位置が90度ズレているのである。今の見え方から三時間引いて三時から数えてみる。

三時は十二時、
五時は二時、
七時は四時、
八時は五時、
十一時は七時、
十二時は九時、
二時は十一時、
三時は十二時。
完全に一致した、そうか同じか。そしてそれぞれのマテリアのある窪みの色はさっきと変わっていないようにも見える。
こうなってくると、マテリアの配置が世界を変えた訳では無いという結論になってくる。であれば何か、ジオラマを見る位置によって世界は変わってしまうのか。神様の見る位置次第で一変してしまう世界、なんと神のための世界構成なのか。
ふと窪み裏のスイッチが気になる。スイッチなんて一つあれば済むものである。それが窪みごとにあるということは、やはり立っている位置が重要で、押す瞬間の立ち位置がムジカに影響してしまうのだろうか。
顎から降ろす手をジオラマのそばにつく。コンポスのコダー、否、太陽も斜陽となり私を低い位置で覗き込む。主人より大きくなる影。
もう一つ別のスイッチを押すとどうなる…?
ふと胸で騒ぎ立てる好奇心。ムジカのボクやみんなに出来ないことはコンポスで神である私がやるしかない。妙な使命感に包まれ腰をかがめる。
…!?
人は予想の手の内として構えてる世界の外側の事象をみとめたとき、何かしらに襲われる恐怖を察知し身を固める。追いつかない脳。ただし目はそれをみとめている。
私は…押してない…なぜだ?
ボタンがオンであることを示す光。ただ目に飛び込んできては言葉が逃げていく。
誰かが既に押していた…?
傾けたままの頭で、椅子が移動する前にいた場所のレール背面に目をやる。そこにオンの光が確認できない。
違う、さっきの二重のスイッチ音はもしかしてこれだったのか。
椅子のpボタンを押した時だろう。勝手に私がいる場所のスイッチがオンになり、元の場所のスイッチがオフになっていたのだ。そう考えるのが自然である。
顔を上げ、背をただす。この位置の私に飛び込んでくる7色とムジカから確認できる合成色は、心做しか先のものとは違って見えた。
短旗
原因がわからないという次元にすらいない。何が起きているかがわからない。今わかっていること、それはコンポスでの不可解な出来事とムジカが一変してしまったこと、そこに因果関係があるのだろうということである。
失われた自然な安らぎ…はっ!聖なる旗は?
旗はNatural Majorを示し、ムジカの自然な明るさを示していたはずである。こんな状態では旗を見てもムジカの様子は分からないではないか。
ナチュラル…他の意味があるのか…
空を見つめる視点が旗を捉える。霞む光景に視点が再フォーカスする。
え、m…inor?
また気が付かなかった。旗は前に見たそれではなかった。minor、長短真逆の名称に変わっていた。
Natural minorか。
言葉から連想する負のオーラ、決して明るくないイメージと暗さを帯びるジオラマ。争いなく誰も傷つくことなく、ただ意気消沈していくムジカ。
自然な暗さ、か。
究明に伴う知的好奇心の満足と押し寄せる更なる欲求。それを上書きするかのように伝わってくる世界を変えてしまった罪悪感と右腕のしびれを空中に振り払い、私は椅子に背を預け目を瞑った。