[6mm]Parallel.
視点
カチカチッ
ワンプッシュに二回の音。こだまなのか。だとすると部屋の大きさには見合わない遅延。それ以外に変わったことは起きていない気がする。ゆっくりと目をあける。
…どこだ!?
いや、それは無意味な質問である。私はここを知っている。さっきと変わらず同じ部屋にいる。そうではない、私は今どこに座っているのか、それが問題なのである。

右の窓から私の頬を撫でる風。私が座っていた場所に私は居ない。椅子ごと移動している。ジオラマ基準で言うと、先程の場所から90度右側にいて、そこからジオラマを眺めている形だ。何の刺激も動いた形跡も感じなかった。ただただ目を開けた時に景色だけが移動していた。
椅子の移動…
私はもう一度ボタンを押す欲求に包まれる。pボタンを…
明るい…?
ボタンの色が明るく輝いている。天然色のような自然な明るさである。
目を開けて見つめてやる
思考が八割方停止する中スイッチを押す。
カチカチッ

視覚を奪われたのか、はたまた私の目は上映スクリーンと化したのか。目の前の情景がクロスフェードする。現実とは思えない光景。先程の位置の景色を見せられている。
私もまた誰かのジオラマの中にいるのか…
再度ボタンを探す。暗く輝くボタンを。
カチカチッ
90度回転した景色。ふとジオラマの異変に気がつく。
え、どうした住人…何があった!?
影の世界
そう、楽しさはいつか終わる
ボクは悟っている。楽しい時もそりゃあある。でもずっとそうあるわけじゃない。いつか悲しいことだって訪れるんだ。
ハグしたばかりのムジカ好きお兄さんに会釈をし、道端に伸びる影をゆっくり目で追い歩みを進める。座り込む人と衝突する影。
行ってしまうのかい
顔を挙げることなく投げかけられる声。
うん、みんなも向かうんでしょ。
目を合わせることなく声の元へ返す声。
こうなることもあるさ。こうなることも。
誰へ宛てたわけでもない声。
向かいましょう。
抗うことなく背中を押す声。ただただ暗いムードに包まれている。僕にはよくわからない。変化の予兆も何も感じなかった。ただいつの間にか寂しさに包まれている。
私が押したボタンのせい?
負の感情というのだろうか。ネガティブが次から次へと押し寄せてくる感情の波。ムジカにいても感じること以外のことは何も分からない。僕を含めて誰も俯瞰できる人物はいない。やはり私だ、コンポスだ。ジオラマを観察しよう。
もう、ちょっと止まってもいいかい…
口をすり抜けた言葉は、地面に座り込むボクの上を照らし続けるコダーに届いただろうか。薄暗く赤色に僕らを染めていたコダーは、言葉より早く黒い黄色へと変化しつつあった。