[2mm]-Composs-

2019年12月16日

記憶

今日のおでかけも終わりだ。“終わり”が来る。

今日のお出かけ、ってなんだっけ。

目的を忘れてしまった。まぁボクらしいっちゃボクらしい。しかし今日はやり切った、とにかく今日は楽しかった。昨日も楽しかった。一昨日も楽しかった。その前も、その前も、その前も…。

いつの記憶だ?

本当にそれは昨日なのか。私は昨日ここに存在したのか。さっきの村人は知り合いなのか。名前はなんて言うのか?

記憶…とは…なんなんだ?

気が付くと消滅寸前のコダー。役割を終えたのだろうか。

終わる…のか…?

“街にいる”

The Wolrd is Over…

囁かれるキーワード。私はそれを望まない。

途絶えた。浴びるヒカリはもうない。

私は抜け殻になった。記憶があるようでない。人格があるようでない。身体という名の空虚の器だ。

頭上の倦怠感を押しのけるように身体を起こす。ヒカリのない部屋。窓からは大きな庭とザワつく木々の深緑の項垂れる姿。深緑…そうだ、緑のコダーがいた記憶!

私は…街にいた!

自信を握りつぶすくらいに固く結んだ拳を振り上げる。私は街にいた。私の大好きな街。とても親しかった村人たち。村人が誰だったのかはわからない。あんな人間は知らない。それでも私はあの街にいたんだ。

夢…だったんだ。昨日の記憶なんてものはない。

夢とは思えないほどの詳細体験。しかしそれは捏造された記憶とそこにしかない世界。まるでこの…。

ジオラマ…?

ジオラマのムジカ、オフ状態。

消えている、玉石はヒカリを失い、街は色を失っている。世界が消えている。私の大好きな…

ムジカ…。

神のスイッチ

私はこの中にいたのか。ジオラマ世界に感じる懐かしさに波打つ鼓動、再度息を腹底へ押し込む。

お前の番だ

何か聞こえる。不自然を憶える声。

好きにするがいい

反響を一切していない。この部屋からのものではない。

ムジカはシンリ

身体の中から聞こえる。心に直接語り掛けられているかのようだ。ムジカは真理と言ったのか、それとも心理なのかよくわからない。

コンポスは神の庭園

コンポス、何を指しているのか。この館のことなのか、この部屋のことなのか、はたまた何か別のものを語っているのか。

次第に湧く興味が声になり、早口でまくしたてる。静まり返る部屋。私の問いに答えるものはいないようだ。

ヒカリを失った玉石を見る。7つまばらにセットしてある。いや、したのは自分だ。思い出せ。何が起きたのか。この玉石をジオラマの周囲の窪みにセットした。それから玉石がヒカリを放ち、ムジカが生を宿し、私は椅子に座りこみ気を失った。椅子はどこだ?いつの間にか用意されていた椅子。

おかしい、一瞬の意識とは言えそれなりの大きさがあったことを憶えているつもりである。それが探してみるもののどこにも見当たらない。誰かが持ち去ったとしか思えない。いや、違う。この環境は尋常じゃない、常識的なことに制限されるような空間ではない。

神の庭園…

もう常識的なことは考えられない。もう一度あの世界に戻るにはどうしたらいいのか。椅子は鍵だと思う。あの椅子に座ってからムジカの街に入り込んだ。その前に何があった。

カチッ。

そうだ。7つ目の玉石を置く時に窪みのハマりが悪い感じを覚え、少しはめ込むように押し込んだ。その時に何かスイッチのようなものが入る音がした。何か窪みにスイッチがあるのか。

一つ手に取り窪みを覗き込む。その中は奥が見えない。まるでそこから異世界に繋がってるような深い闇。もはや窪みではない。そこにスイッチはあるのかなんてそんなことどうでもいいくらいに思えてくる闇のトンネル。

触れて確かめる…か。

口から放つ言葉とは裏腹に、私は恐怖で動けずにいる。この闇に手を伸ばすと、底に到達することなくどこまでも吸い込まれてしまう気がしてくる。

裏面だ、裏面を確かめよう。

ジオラマ周囲のレール裏を覗き込む。当然の事ながら裏へは容易に回り込むことができ、窪みという物理的境界の壁を認識する。そしてそこにそれらを見つける。

十二個のスイッチ…?

等間隔のスイッチ。十二個の窪みのちょうど裏側辺りにあるようだ。レールに玉石を押し込んだ時、ある一定の力を超えた時にこのスイッチが入った、そんな想像が頭に浮かぶ。裏からも押せそうである。

どうする…どれかを押してみるか…?

先程スイッチが入ったのは恐らくこの手前の7つ目の玉石を置いたところだろう。違うボタンへの興味も惹かれる。しかしそれがトラップだとしたら?いるのか不明な館の主の目的、館の存在意義、ジオラマの意味するものも何も分からない。しかし押したい欲は抑えきれない。

…行こう

進むんだ…

進むしか…!

…っ!

ムジカ in CNM

押した。恐怖が勝ったのもある、しかしやはりあの楽しかったムジカに再度行けるのではという期待が最大限の背中押しをしてくれた。押したのは同じボタン。気が付くと発光する玉石。よく見ると7つとも色が異なっていて、綺麗な7色を描いている。なんという神秘的な光景だろう。これは石ではない、ムジカを彩る聖なる素材、マテリアだ。

7CM … 7 Color Materials

そうか…。朦朧としていく中、私は綺麗な7色が心に流れ込むのを感じていた。

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  • 筆者
    月屑
新公理系の音楽理論『7 Color Materials』提唱者。本音楽理論と、その世界観を表現した物語小説『7CM』およびその解説を本サイトにて執筆・公開中。 月屑という別名義でも『Music STanDard In/Out』というサイトにて、従来の音楽理論寄りの『キミの音楽理論』や、楽曲の耳コピ分析等を執筆。
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